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JV工事の保険を完全解説|甲型・乙型の違いと年間包括契約の注意点

JV工事を請け負うことになったとき、「既存の年間包括契約があるから保険は大丈夫だろう」と考えていませんか。

甲型JV工事は年間包括契約の補償範囲から除外されており、別途「甲型共同企業体契約」という専用の契約を結ぶ必要があります。

この事実を知らずに着工すると、事故が起きた際に「保険が使えない」という事態を招きかねません。

この記事を読むと、甲型・乙型の違いを踏まえて、年間包括契約で足りるのか、別契約が必要なのかを判断しやすくなります。

この記事でわかること
  • JVの基本的な定義と甲型・乙型の違い
  • 工事保険は3種類に分けて考える
  • 甲型JV工事は年間包括契約とは別契約が必要な理由
  • JV工事でよくある保険の誤解と確認すべきチェックリスト

JV契約の扱いは保険会社ごとに確認ポイントが分かれるため、判断に迷うときは建設業向けの工事保険を比較できる窓口を使う方法もあります。

この記事を書いた人
後藤 文男

国内大手損害保険会社で法人営業職を経験後、2013年に入社。補償内容の見直しや保険を活用した経費削減の提案など、損害保険分野のリスクコンサルを得意としている。
【保有資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)

JVとは?甲型・乙型の違いまで先に押さえる

JV(共同企業体)とは、複数の建設企業が一つの建設工事を受注・施工するために形成する組織体です。法人格のない民法上の組合で、公共工事の大規模案件で多く使われます。

出典:建設産業・不動産業:共同企業体制度(JV)(国土交通省)

JVには「甲型(共同施工方式)」と「乙型(分担施工方式)」の2種類があります。甲型は全構成員が一体で施工・費用計算を行い、乙型は工事を分割して各社が分担施工する方式です。この違いが、後述する保険の扱いに直接影響します。

まとめると、以下のようになります。

比較項目 甲型JV(共同施工方式) 乙型JV(分担施工方式)
施工方式 全構成員が一体となって施工 工事を分割し各構成員が分担施工
共通経費 共同企業体として一体で計算 各構成員が分担工事ごとに計算
費用計算 共同企業体として一体 各構成員が分担工事ごと
施工責任 構成員が一体となって負う 分担工事ごと(最終的には連帯責任)
利益分配 出資割合に応じて配分 分担工事ごと

出典:共同企業体の在り方について(国土交通省)

JV工事で必要な3つの工事保険とは?

まずは、JV工事でも土台になる3つの保険を整理します。

それぞれ補償する対象が違うため、3種類を分けて見た方が整理しやすくなります。

第三者への損害賠償をカバーする賠償責任保険

賠償責任保険は、工事中に第三者にケガをさせたり、第三者の物を壊したりした場合の賠償責任をカバーする保険です。

代表的な商品名としては、請負業者賠償責任保険、生産物賠償責任保険があります。

補償内容は、被害者への損害賠償金、治療費、慰謝料、修理費などです。

たとえば、クレーン横転で隣家を損壊した場合、損害賠償金は1,000万円以上になることもあります。

資材落下で通行人にケガをさせた場合は2,000万円、地盤崩壊で周辺建物が損壊した場合は1,600万円、配線ミスで火災が発生し隣家を燃やした場合は7,700万円といった事例も報告されています。

賠償額は被害者一人当たり数千万円~1億円を超えることもあるため、十分な補償額の保険に加入しておくことが重要です。

あわせて読みたい
賠償責任保険の必要性|工事現場の第三者リスクと補償事例をわかりやすく解説

工事現場での作業中、第三者にケガを負わせてしまったらどうしますか? 建設業は全産業の中で最も労働災害が多く、令和6年には死亡者数746人のうち建設業が232人と最も多く、全体の約31.1%を占めています。これらの事故では、作業員だけでなく通行人や近隣住民など第三者が被害に遭うケースも少なくありませ

作業員のケガ・死亡に備える任意労災保険

任意労災保険は、工事現場で作業員がケガをした場合や死亡した場合に備える保険です。

政府労災保険の上乗せ補償として機能します。

補償内容は、死亡補償、後遺障害、入院補償、通院補償、休業補償、使用者賠償などです。

政府労災保険では賄いきれない部分(慰謝料、弁護士費用など)をカバーします。

具体的な事故例としては、高所からの落下で後遺障害を負った場合に後遺障害保険金5,000万円、機械への巻き込まれで指を切断した場合に後遺障害保険金・治療費、感電死の場合に死亡保険金が支払われます。

厚生労働省の統計によると、2023年の建設業の死亡者数は223人(全業種中最多)、死傷者数(休業4日以上)は14,414人にのぼります。

死亡災害の最多事故型は「墜落/転落」が38.6%を占め、死傷災害でも「墜落/転落」が31.6%を占めています。

建設工事のリスクの高さが伺えるデータです。

出典:2023年の労働災害死亡者数、過去最少に 建設業の死傷者数も減少(BUILT)

建築中の建物・資材の損害を補償する工事対象物の保険

工事対象物の保険は、建築中の建物や工事資材が事故で壊れた場合や盗まれた場合に補償される保険です。

代表的な商品名としては、建設工事保険、土木工事保険、組立保険があります。

補償対象は、建築中の建物、工事資材、仮設物、現場事務所などです。

補償される事故例としては、台風で建築中の建物が破損、資材の盗難、火災で現場が全焼などがあります。

工事対象物の損害は、工事の規模によって数百万円~数億円になることもあります。

賠償責任保険や任意労災は「人」や「第三者の物」を守る保険ですが、工事対象物の保険は「自社の工事そのもの」を守る保険です。

台風や火災で工事がストップすれば、工期の遅れや再施工の費用が発生します。

この損害をカバーするのが工事対象物の保険の役割です。

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建設工事保険で現場を守る!補償範囲や補償外のケースもあわせて解説

建設工事に携わる皆さんにとって、建設途中の建造物・資材が壊れたり、傷ついたり、はたまた盗まれてしまったり…といった「もしも」の状況は案外珍しいことではありません。 実際に、国土交通省の建設工事事故データベースによると、令和元年から令和4年度にかけて約1,600件の建設工事事故が発生しています。

JV工事で年間包括契約は使える?甲型は別契約、乙型は要確認

JV工事を請け負った場合、保険の扱いは通常の工事とは異なります。

特に重要なのが、「既存の年間包括契約がJV工事に適用されるかどうか」という点です。

年間包括契約に加入していても甲型JV工事は別契約が必要

多くの建設業者は「年間完成工事高契約」(年間包括契約)に加入しています。

これは、保険期間中に行うすべての工事を自動的に補償する契約形態です。

しかし、甲型JV工事は、この年間包括契約とは別に「甲型共同企業体契約」という専用の契約を結ぶ必要があります。

甲型JV工事は年間包括契約の補償範囲から除外される

建設業福祉共済団によると、甲型共同企業体契約は「年間完成工事高契約の付随契約」として、工事受注の都度、工事現場ごとに加入する契約です。

つまり、年間包括契約に加入していても、甲型JV工事については別途専用の契約を結ぶ必要があるということです。

年間包括契約の補償範囲から甲型JV工事が除外されているためです。

この思い込みは、事故時の補償漏れにつながりやすい誤解です。

JV工事を請け負ったら、まず既存の保険の補償範囲を確認しましょう。

出典:甲型共同企業体契約(公益財団法人 建設業福祉共済団)

乙型JV工事は年間包括契約に含められる場合もある

一方、乙型JV(分担施工方式)の場合、各構成員が分担工事について個別に責任を負うため、個社の年間包括契約の対象工事に含められるケースもあります。

ただし、保険会社や契約内容によって扱いが異なるため、乙型JV工事の場合も、保険会社または代理店に確認すべきです。

乙型JVでも自動で対象になるとは限りません。

証券の対象工事欄や特約の扱いまで見ないと、判断を誤るおそれがあります。

甲型JV工事には専用のスポット契約が必要

甲型JV工事を行う場合、「甲型共同企業体契約」という専用の保険契約を結ぶ必要があります。

この契約は、建設業福祉共済団や全国建設業労災互助会などで提供されています。

工事ごとに加入し労働者を無記名で補償

甲型共同企業体契約は、工事受注の都度、工事現場ごとに加入する契約です。

甲型JV工事現場で働く労働者を無記名で補償します。

補償の対象は、労災保険で業務災害または通勤災害と認定され、死亡、障害1級から7級、傷病1級から3級に該当した場合です。

補償は被災者等に対する追加的補償(被災者補償)と、労働災害の再発防止費用などを補償する部分(諸費用補償)で構成されています。

出典:甲型共同企業体契約(公益財団法人 建設業福祉共済団)

契約期間は申込日から工事完了まで・保険料は請負金額で算定

契約期間は、申込書類に記載の申込日と掛金の支払日のいずれか遅い日の翌日から工事完了までです。

工事期間の延長や増工があった場合は、延長日数や増工分の請負金額を追加することで補償対象となります。

保険料の算定は、当該工事の請負金額を基礎として算出されます。

出典:甲型共同企業体契約(公益財団法人 建設業福祉共済団)

保険契約の名義と構成員の連帯責任

JV工事の保険契約は誰の名義で行うのか、また、構成員の責任はどうなるのかを説明します。

この点は法律上の複雑な問題ですが、実務上は必ず確認しておきたい項目です。

実務では代表者名義またはJV名義で契約されることが多い

理論上は、JVが第三者と法律行為(保険契約の締結等)を行うには、常に構成員全員の名義を表示するのが典型的な形です。

しかし、実務上は「共同企業体代表者名義」または「共同企業体のみの名義」で保険契約が行われることが多いのです。

火災保険契約や前払保証契約などでは、この形式が一般的になっています。

保険会社や保険種類によって取り扱いが異なる可能性があるため、JV工事を請け負った場合は、保険契約の名義について保険会社または代理店に確認する必要があります。

出典:共同企業体の在り方について(国土交通省)

出資比率30%でも全額負担の可能性がある連帯責任

JV工事で事故が発生した場合、各構成員は連帯して責任を負います。

これは最高裁判例(平成10年4月14日)でも確認されています。

たとえば、出資比率30%の構成員であっても、他の構成員が支払能力を持たない場合、事故の全額(100%)を負担する可能性があるのです。

したがって、JV工事においては、自社の出資比率に関わらず、十分な補償額の保険に加入することが非常に重要です。

特に、財務状況が安定していない構成員がいる場合は、保険の補償額を慎重に設定すべきです。

連帯責任という仕組み上、他社の支払能力まで見越して補償額を決める必要があります。

JV工事でありがちな2つの思い込み

保険の扱いを正しく理解していても、実務ではよくある思い込みがトラブルの原因になります。

特に以下の2点は、JV工事を請け負った担当者が陥りやすい誤解です。

JV工事も自社の保険で補償される?→JVは別事業として扱われる

「JV工事は自社が請け負った工事だから、自社の保険で補償される」と考えている場合、注意が必要です。

労災保険では、共同企業体が行う事業全体を1つの事業とし、その代表者を事業主として保険関係を成立させます。

つまり、JV工事は個社の工事とは別の事業として扱われるため、個社の年間包括契約では補償されません。

JVには法人格がないため、「自社の工事」と「JVの工事」の境界が曖昧に感じられるかもしれません。しかし保険の観点では、JV工事は「自社の工事」とは明確に区別されるのです。

出典:甲型共同企業体契約(公益財団法人 建設業福祉共済団)

代表者が保険契約すれば全構成員が補償される?→契約内容の確認が必要

「JVの代表者が保険契約を締結すれば、全構成員が自動的に補償される」というのも、よくある思い込みです。

実務上、保険契約は代表者名義で行われることが多いため、「代表者が契約すれば全員カバーされる」と判断しやすいのです。

しかし、保険会社や保険種類によって、補償範囲の扱いは異なります。

JV工事を請け負った場合は、「誰が被保険者になるのか」「全構成員が補償されるのか」を保険会社または代理店に確認すべきです。

出典:甲型共同企業体契約(公益財団法人 建設業福祉共済団)

JV工事を請け負ったら確認すべき8つのチェックリスト

JV工事を請け負った場合、保険について確認すべき項目をチェックリスト形式でまとめました。

このチェックリストに沿って確認することで、保険の漏れやトラブルを防ぐことができます。

特に先に確認したいのは、年間包括契約の対象工事、被保険者の名義、補償額の3点です。

ここが曖昧なまま着工すると、事故時の支払可否で揉めやすくなります。

JV工事における保険確認のチェックリストは、次のとおりです。

チェックリスト
  • 既存の年間包括契約の補償範囲を確認(JV工事が含まれるか?)
    甲型JV工事は専用の契約が必要なため、ここが最初のチェックポイントです
  • JV工事が除外されている場合、JV名義での保険契約を検討
    別途JV名義での保険契約を締結しないと、事故時に補償を受けられません
  • 保険契約の名義を確認(全構成員の連名または代表者名義またはJV名義)
    保険会社や保険の種類で名義の扱いが変わるため、ここは先に見ておきたい項目です
  • 補償額を確認(構成員の連帯責任を考慮し、十分な補償額か?)
    連帯責任があるため、自社の出資比率に関わらず十分な補償額が欠かせません
  • 契約期間を確認(工事開始から完了までカバーされるか?延長時の扱いは?)
    工事期間の延長や増工があった場合、補償対象外となる可能性があります
  • 各保険種類について、JV工事での扱いを確認(賠償責任保険、任意労災、工事保険、履行保証保険)
    保険の種類によってJV工事の扱いが異なる場合があるため、それぞれ確認が必要です
  • 甲型・乙型の違いによる扱いの差を確認
    甲型と乙型では保険の扱いが大きく異なるため、自社のケースがどちらに該当するか見極めが必要です
  • 保険会社または代理店に、「JV工事である」ことを明示して相談
    JV工事であることを伝えないと、JV工事に合う保険契約を締結できない可能性があります

保険会社に相談する際は、「甲型JVか乙型JVか」「工事の請負金額」「工事期間」を明確に伝えることで、スムーズに工事条件に合うプランを提案してもらえます。

まとめ:JV工事の保険で失敗しないために

JV工事における保険の扱いは、通常の工事とは異なります。

この記事のポイント
  • 甲型JV工事は年間包括契約とは別に専用契約が必要
  • 乙型JV工事は年間包括契約に含められる場合もあるが要確認
  • 構成員の連帯責任があるため出資比率に関わらず十分な補償額が必要

「既存の保険があるから大丈夫」という思い込みは、事故時の補償漏れにつながります。

読み終えたら、まずこの3つを動かしてください

1. 手元の保険証券で、JV工事が対象か確認する

証券の「対象工事欄」または「特約条項」を見て、甲型JV工事が含まれるかを確認します。含まれていなければ、次のステップに進んでください。

2. 甲型JVであれば、着工前に保険代理店か保険会社に連絡する

「甲型JVである」ことを伝えると、専用契約(甲型共同企業体契約)の手続きに案内してもらえます。実務上は代表者名義で締結するケースが多いため、代表者と事前に調整しておくと手続きがスムーズです。契約は申込日の翌日から有効になるため、着工日が決まった時点で動き始めることが大切です。

3. 補償額は、連帯責任を前提に設定する

自社の出資比率に関わらず、他の構成員が支払能力を持たない場合は全額負担になる可能性があります。保険料は請負金額をもとに算定されるため、工事規模が固まった時点で保険会社に見積もりを依頼できます。

不明点があれば、甲型か乙型かを整理したうえで相談すると、判断しやすくなります。

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