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解体工事の保険と免責|「保険が効かない」5つのケースと対策
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解体工事の保険と免責|「保険が効かない」5つのケースと対策

「解体工事の作業対象である建物そのものは、多くの保険で補償の対象外になる」

実は、解体事業者が加入する賠償責任保険には、このように補償が適用されない「免責事項」がいくつも定められています

このルールを知らないまま万が一の事態が起きれば、損害が自己負担となり、会社の経営に大きな影響を与えることも考えられます。

そのため、会社を守るには、この免責事項を正しく理解し、リスクに備えることが重要です。

この記事では、そうした保険のポイントと具体的な対策を専門家の視点から解説します。

読み終える頃には、自社の保険が本当に十分かを見極め、安心して事業に取り組むための知識が身についているはずです。

解体工事の保険が効かない?知っておくべき5つの免責ケース

冒頭でも触れたように、解体工事の保険には補償が適用されない「免責事項」が定められています。

では、具体的にどのようなケースで補償されないのでしょうか。

ここでは、解体業者が直面しがちな「保険で補償されない」5つの典型的な事故パターンをご紹介します。

解体工事で保険が効かない5つのケース
  1. 工事対象物そのものの損壊:解体対象の建物や基礎への損害
  2. 下請け業者が起こした事故:元請けの責任が問われるケース
  3. レンタルした重機・機材の破損:借り物への損害は補償対象外
  4. 天災による二次被害:管理不備が原因とされる人災
  5. 法令違反(コンプライアンス違反)による事故:違法行為は一切補償されない

以下、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。

ケース1:工事対象物そのものの損壊

もっとも基本的でありながら、誤解されやすいのがこの点です。

なぜ保険で直せないのか?多くの解体業者が加入する「請負業者賠償責任保険」は、あくまで業務中に「第三者」の身体や財産に損害を与えた場合の賠償責任を補償するものです。

一方で、解体工事の対象となっている建物やその基礎などは「作業の対象物(目的物)」と見なされます。

これは第三者の財物ではないため、万が一作業中に誤って壊してしまっても、保険の補償対象外(免責)となるのが原則です。

具体的なシナリオ

  • 作業対象物の一部破損: 重機の操作を誤り、まだ解体予定ではなかった基礎の一部を壊してしまった。
  • 地中埋設物の破損: 事前調査では分からなかった古い浄化槽や井戸を工事中に発見し、破損させてしまった。この場合、埋設物自体は第三者の所有物ではないため、賠償保険の対象にはならず、その撤去費用も補償されません。

専門家の視点からも、「基本的な請負賠償保険だけでは、こうした作業対象物への損害はカバーできない」という点が指摘できます。

地中埋設物などへの対応には、別途特約を付帯するか、専門の保証制度を検討する必要があります。

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解体工事では、事前の調査で把握できなかった浄化槽や井戸、古い建物の基礎などの地中埋設物の発見が、追加費用や工期見直しの要因となることがあります。 解体工事のリスク対策の基本は、多くの業者が加入する「請負業者賠償責任保険」です。 しかし、その"基本"の保険にこそ、思いがけない注意点が潜んでいること

ケース2:下請け業者が起こした事故

下請け業者に作業を委託する際、「事故が起きても、対応するのは下請け業者」と考えていないでしょうか。

法律上、その考えはリスクが高いと言えます。

法的根拠とリスク

元請企業は、下請け業者の作業に対しても、指揮監督責任(民法715条)や注文者としての過失責任(民法716条)を問われることがあります。

もし下請け業者が無保険の状態で事故を起こした場合、被害者からの損害賠償請求は、資力のある元請けに向けられることが少なくありません。

特に注意したいリスクとして、近年、労災保険に特別加入していない一人親方が現場で負傷し、公的な補償を受けられないケースが問題となっています

このような場合、元請けが道義的責任を問われ、補償交渉に応じざるを得なくなるなど、複雑なトラブルに発展しがちです。

元請けの保険だけで下請けの事故までカバーできる保証はなく、「下請け任せ」は極めてリスクが高い状態です。

下請け業者自身が適切な賠償保険に加入しているかを確認し、管理する体制が求められます。

ケース3:レンタルした重機・機材の破損

自社で保有していない重機や機材を、リースやレンタルで調達することは多いでしょう。

しかし、その借り物にも注意すべき保険のポイントがあります。

通常の賠償責任保険は、前述のとおり「第三者」の財物への損害を補償するものです。

レンタルした重機などは、保険上、自社が管理下にある「受託物」と見なされるため、第三者の財物には該当しません。

具体的なシナリオ

  • レンタル中の重機を操作ミスで転倒させてしまった。
  • 借りていたアタッチメントを、作業中に破損させてしまった。

このような事故では保険金が支払われず、レンタル会社から高額な修理費用や代替品の費用を実費で請求されることになります。

対策として、レンタル品などの受託物を補償対象に含める「受託物賠償特約」への加入を検討しましょう。

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ケース4:天災による二次被害

「地震や台風などの天災による損害は、不可抗力だから仕方ない」とは、必ずしも言えない場合があります。

確かに、保険の約款上、「地震・噴火・洪水・津波・台風」といった自然災害そのものが原因で発生した損害は、免責とされるのが一般的です。

しかし、天災が引き金になったとしても、事故の原因に「通常求められる安全対策の怠り(管理不備)」があったと判断されれば、それは「人災」として損害賠償責任を問われる可能性があります。

例えば、老朽化した建物の屋根を対策なしに放置していたところ、平均的な強さの台風によって屋根材が飛散し、隣家を破損させてしまった、というケース。

この場合、天災ではあるものの「管理不備」が原因とされ、所有者の賠償責任が認められることがあります。

さらに厄介なのは、たとえ管理不備によって法的な賠償責任が生じたとしても、保険契約の免責条項(天災免責)が優先され、保険金は支払われない可能性がある点です。

「天災が原因だから」という理由で、賠償責任は自社で負い、保険金も出ない、という最悪の事態も想定しておく必要があります。

ケース5:法令違反(コンプライアンス違反)による事故

当然のことですが、法律を守らずに行った業務に起因する損害が、保険で補償されることはありません。

保険の約款には、必ず「被保険者(またはその代理人)の故意・重大な過失・法令違反」に起因する損害は補償の対象外とする旨が明記されています。

具体的なシナリオ

  • 建設業許可や解体工事業登録を受けずに、無許可で解体工事を請け負った。
  • アスベスト除去作業において、法律で定められた飛散防止措置を怠った結果、近隣に健康被害や環境汚染を引き起こしてしまった。

保険は、あくまで適法な事業活動のリスクを補うものです。

不正や違法行為の結果生じた損害まで補償することは、保険制度の根幹に反するため、議論の余地なく免責となります。

保険証券で見るべき!免責事項のチェックポイント3つ

では、自社の保険が十分かどうかを判断するために、保険証券のどこを、どのように見ればよいのでしょうか。

ここでは、契約時に必ず確認すべき3つの重要項目を具体的に解説します。

お手元に保険証券をご用意のうえ、チェックしてみてください。

ポイント1:免責金額(自己負担額)はいくらか

まず確認すべきは、「免責金額」です。

これは、万が一事故が起きた際に、保険金から差し引かれる自己負担額を指します。

  • 金額の妥当性:
    設定されている免責金額が、会社のキャッシュフローで無理なく支払える範囲内に収まっているか。
  • 保険料とのバランス:
    免責金額を高く設定すれば、支払う保険料は安くなります。一方で、事故時の自己負担は増えます。どのような事故に備えたいのか、会社の財務体力と相談し、最適なバランスを見つけることが重要です。

ただし、必ずしも免責金額0円がベストとは限りません。

損害額が5万円、10万円程度の小さな事故は自費で対応すると割り切り、その分保険料を抑えるというのも、一つの考え方です。

ポイント2:具体的にどのような条件で免責になるか

次に、保険証券や約款に記載されている「免責事項」や「保険金をお支払いしない主な場合」という項目を確認しましょう。

ここには、保険が適用されない具体的なケースが挙げられています。

以下は、多くの保険で標準的に免責とされている項目です。自社の契約がどうなっているか、確認しましょう。

解体業における代表的な標準免責事項 
  • 地盤沈下、振動、騒音によって生じた損害
  • 工事完了・引き渡し後に、工事の欠陥が原因で発生した損害(これは生産物賠償責任保険(PL保険)の領域です)
  • 請負契約で定められた業務外の作業中に発生した事故
  • アスベストなどの有害物質や、環境汚染に起因する損害
  • 作業対象物や借用物など、自社が管理している財物への損害

特に注意すべき「隠れ免責」

特に注意してほしいのが、「地下埋設物損壊不担保特約」の存在です。

これは、保険料を安くする代わりに、地中埋設物への損害を補償対象から外す特約です。

解体業者にとっては致命的とも言えるこの特約が、知らぬ間に自動付帯されているケースもあるため、契約時には必ず確認し、必要であれば外せるか相談すべきです。

特にアスベストや地中埋設物は多くの場合で免責となり、特約や別途保険に加入する必要もあります。

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撤去費用は保険で出る?解体工事の地中埋設物に「使えない」ケースと正しい備え方

解体工事では、事前の調査で把握できなかった浄化槽や井戸、古い建物の基礎などの地中埋設物の発見が、追加費用や工期見直しの要因となることがあります。 解体工事のリスク対策の基本は、多くの業者が加入する「請負業者賠償責任保険」です。 しかし、その"基本"の保険にこそ、思いがけない注意点が潜んでいること

ポイント3:免責範囲をカバーする特約はあるか

標準契約ではカバーされない免責範囲も、「特約」を付帯することで補償対象にできる場合があります。

自社のリスクに合わせて、必要な特約が過不足なく付帯されているか、証券の「特約条項」などを確認しましょう。

解体業者が検討すべき主な特約
  • 受託物賠償責任特約: レンタル重機など、他人から預かった「受託物」への損害を補償します。
  • 作業対象物担保特約: 工事の目的物そのものへの損害を補償します(取り扱う保険会社は限定的です)。
  • 振動・騒音・沈下担保特約: 地盤沈下や振動などによる損害を補償します(多くの場合、物理的な損壊が条件となります)。
  • 環境汚染賠償責任保険(特約): 環境汚染リスクに備えます。
  • 使用者賠償責任特約(労災上乗せ保険): 従業員や下請け作業員の労災事故で、会社が法的な賠償責任を負った場合に、労災保険の給付だけでは不足する部分を補償します。

環境汚染リスクを伴う工事を行うのであれば、専門の保険や特約への加入は必須です。

また、使用者賠償責任保険は、多くの場合、請負賠償保険の特約としてセットで加入できます。

補償の充実と保険料削減を両立!保険見直しの3ステップ

「補償を手厚くすれば、保険料が上がるのは当然」と思っていませんか?

実は、ポイントを押さえることで、補償を充実させながら、保険料負担を適正化することは可能です。

基本的な3つのステップをご紹介します。

3つのステップ
  • ステップ1:事業リスクの洗い出し
    まずは、自社の工事内容や作業環境、過去の事故事例などから、特有のリスクを正確に把握することが重要です。
  • ステップ2:必要な補償の選定
    次に、洗い出したリスクに基づき、必要な特約は強化し、不要・過剰な補償は削減するなど、保険内容を自社専用に最適化します。
  • ステップ3:保険料を抑える工夫
    最後に、複数の保険会社から見積もりを取って比較したり、建設業協会などの団体割引制度を活用したりすることで、保険料負担そのものを軽減できます。

解体工事の保険見直しについては以下の記事でも解説しています。併せてご覧ください。

万が一の事故や将来のリスクに備え、「自社の保険は本当に十分なのか」「いざという時に事業を守れるのか」といった不安をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

建設業の現場を知り尽くした専門スタッフが、現在ご加入中の保険証券をもとに、補償内容の過不足や免責事項、保険料の妥当性まで丁寧に確認し、最適なプランをご提案いたします。

まとめ:「免責」で後悔しない。会社を守る保険の最終チェック

この記事を通じて、解体工事の保険における免責事項を確認することの重要性をご理解いただけたでしょうか。

「保険に入っているから、どんな事故でも安心」というわけではありません。

契約内容を正しく理解し、自社の実態に合った保険かどうかを見極めることが、会社をリスクから守る上で何よりも大切です。

この記事の重要なポイントを、最後にまとめます。

  • 解体工事の保険には、補償対象外となる「免責事項」が必ず存在する。
  • 「工事対象物」「下請け業者」「借用機材」「天災」「法令違反」は、保険が適用されない代表的なケース。
  • 保険証券の「免責金額」「免責条件」「特約」の3点は必ず確認すべき重要項目。
  • 自社のリスクを正確に把握し、必要な補償を見極めることで、保険料の適正化も可能。

とはいえ、たくさんの特約の中から、自社にぴったりのものを見つけるのは難しいですよね。

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この記事を書いた人
後藤 文男

国内大手損害保険会社で法人営業職を経験後、2013年に入社。補償内容の見直しや保険を活用した経費削減の提案など、損害保険分野のリスクコンサルを得意としている。
【保有資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)

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