解体工事の地中埋設物リスク|保険適用の条件と正しい備え方【事例付き】
解体工事では、事前調査で把握できなかった地中埋設物が、追加費用や工期遅延の原因となることがあります。
実際、地中埋設物をめぐる裁判では、除去費用約830万円の支払いが認められた事例(福岡地裁小倉支判平成21年7月14日)もあり、そのリスクは決して小さくありません。
出典:RETIO「判例」
解体業者は、発注者から「撤去費用は元請けの責任」と主張されたり、作業中にガス管や水道管を誤って破損して高額な賠償責任を負ったりと、様々なリスクに直面します。
こうしたリスクに対して、保険はどこまでカバーしてくれるのでしょうか?また、保険で補償されない部分にはどう備えればよいのでしょうか?
この記事では、地中埋設物リスクにおける保険の補償範囲と限界、そして実務的な対策を解説します。
- 地中埋設物の種類と撤去費用相場
- 保険が適用されるケースと適用されないケース
- 地中埋設物発見時の対応フロー
- 土地所有者と請負業者の責任の切り分け
目次
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解体工事の現場では、さまざまなリスクがあり、それぞれに適した保険や対策が必要です。
以下の記事では、特有のリスクごとに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
「解体工事の作業対象である建物そのものは、多くの保険で補償の対象外になる」
実は、解体事業者が加入する賠償責任保険には、このように補償が適用されない「免責事項」がいくつも定められています。
このルールを知らないまま万が一の事態が起きれば、損害が自己負担となり、会社の経営に大きな影響を与えることも 解体工事におけるアスベスト対策について、「うちの会社は、ちゃんと工事保険に入っているから大丈夫」とお考えの場合は、一度お手元の保険証券を確認してみてください。
その保険証券の小さな文字で書かれた部分に、「アスベスト(石綿)による損害は補償の対象外」という一文が見つかるかもしれません。
実は、多く 「解体工事の騒音クレームは、保険で対応できるはずだ」
もし、そう考えているのであれば注意が必要です。
結論からいうと、解体工事にともなう騒音・振動・粉塵といった近隣トラブルは、原則として保険の適用対象外です。
そう聞くと、「一体何のための保険なのか」と疑問に思われるかもしれません。
この記事
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地中埋設物の種類と撤去費用相場

解体工事で発見される地中埋設物は、想定外の費用負担を生むリスクがあります。
まずは、どのような種類の埋設物があり、それぞれどれくらいの撤去費用がかかるのかを把握しておきましょう。
主な地中埋設物と撤去費用相場
| 埋設物の種類 | 撤去費用相場 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 浄化槽 | 30万円〜80万円 | 古い住宅の敷地に多い。 規模や深さによって費用が変動。 |
| 古い井戸 | 20万円〜50万円 | 埋め戻されたまま残っているケースあり。 深さや直径で費用が異なる。 |
| コンクリート基礎 | 50万円〜150万円 | 以前の建物の基礎や土間コンクリート。 重機での掘削と運搬が必要で、量によっては150万円超も。 |
| 地下タンク | 100万円〜300万円 | 灯油・重油貯蔵用タンク。 内容物の処理や土壌汚染調査も必要で高額になる。 |
| その他 | 状況により変動 | 産業廃棄物、建材、配管類など。 種類や量によって費用は大きく変わる。 |
複数の埋設物が見つかった場合、撤去費用は合算されるため、工事予算を大きく圧迫するリスクがあります。
地中埋設物調査の種類と費用
地中埋設物のリスクを事前に把握するため、調査を実施することも有効です。
| 調査方法 | 費用相場 | メリット・デメリット |
|---|---|---|
| ボーリング調査 | 1箇所あたり5万円〜15万円 (総額30万円〜100万円) |
地質や埋設物の有無を正確に調査可能。 敷地の規模に応じて複数箇所で実施が必要。 |
| 地中レーダー探査 | 20万円〜50万円 | 非破壊調査で広範囲を短時間で調査可能。 ただし深い場所の探査には限界あり。 |
| 試掘調査 | 10万円〜30万円 | 実際に掘って確認するため確実性が高い。 ただし調査範囲は限定的。 |
事前調査には費用がかかりますが、工事中に想定外の埋設物が見つかった場合の追加費用や工期遅延を考えると、リスク回避の投資として有効です。
地中埋設物発見時の対応フロー

地中埋設物が発見された場合、適切な対応を取ることで、トラブルを最小限に抑えられます。
ステップ1:作業を一時停止
埋設物を発見したら、すぐに作業を止めましょう。
無理に掘削を続けると、ライフライン(ガス管、水道管など)を破損し、大きな事故につながる可能性があります。
ステップ2:現場の記録を残す
発見した埋設物の写真を撮影し、位置や状態を記録します。
後の責任の所在を明確にするため、証拠を残すことが重要です。
ステップ3:施主と管理者に報告
速やかに施主(発注者)と現場責任者に連絡し、状況を共有します。
この時点で、契約書の責任分担条項を確認しておきましょう。
ステップ4:専門家による確認
埋設物の種類によっては、専門業者や自治体への届け出が必要になります。
特にアスベストや有害物質が疑われる場合は、専門家の判断を仰ぎます。
ステップ5:撤去費用と責任の確認
契約書の内容に基づき、誰が撤去費用を負担するかを確認します。
保険の適用可能性も、この段階で保険会社に問い合わせましょう。
ステップ6:撤去作業の実施
責任と費用負担が明確になったら、適切な業者に撤去を依頼します。
撤去後も記録を残し、工事完了報告に含めることが望ましいです。
地中埋設物リスクに備える保険と契約書の役割
地中埋設物のリスクに備えるには、保険と契約書の両面からの対策が必要です。
保険で備えられるリスク
解体工事業者が加入する「請負業者賠償責任保険」が基本となります。
これは、工事中に第三者が所有する地中埋設物(ガス管、水道管、電線など)を破損した場合の賠償責任を補償します。
保険では対応できないリスク
一方で、工事対象地内に残された古い埋設物(浄化槽、井戸、コンクリート基礎など)自体の撤去費用は、第三者への賠償ではないため保険の補償対象外です。
このリスクには、契約書での責任分担の明確化や、専用の保証サービスで備える必要があります。
解体工事保険の基本的な仕組みや免責事項の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。
解体工事の保険と免責|「保険が効かない」5つのケースと対策
「解体工事の作業対象である建物そのものは、多くの保険で補償の対象外になる」 実は、解体事業者が加入する賠償責任保険には、このように補償が適用されない「免責事項」がいくつも定められています。 このルールを知らないまま万が一の事態が起きれば、損害が自己負担となり、会社の経営に大きな影響を与えることも
請負業者賠償責任保険の補償範囲

解体工事業者が加入するもっとも基本的な保険が「請負業者賠償責任保険(請賠)」です。
これは、工事中の事故で第三者の身体や財産に損害を与えた場合の法律上の賠償責任を補償します。
例えば、重機での作業中に地中のガス管を壊してしまった場合、その修理費用や周辺への損害賠償金が対象です。
目に見えない地中のリスクに備える上で、まさに必須の保険です。
【重要】地下埋設物損壊不担保条項に要注意
ただし、契約内容によっては「地下埋設物への損害」が補償対象外の場合があります。
損害保険ジャパンの普通保険約款には、「地下埋設物不担保追加条項」という特約が存在します。
この特約が付帯されている場合、上下水道管、ガス管、電線、通信ケーブルなどの地下埋設物への損害は、保険金支払いの対象外となります。
保険料を安くする代わりに、地中埋設物損壊を補償対象外とするこの特約は、解体業者にとっては致命的になりかねません。
契約時には必ず確認し、必要であれば特約を外せるか相談すべきです。
請負業者賠償責任保険とは?第三者への賠償リスクに備える保険について解説
賠償責任保険といってもさまざまな種類がありますが、その中で今回は請負業者賠償責任保険について説明します。 「請負業者賠償責任保険って何?」と思う方もいるでしょう。 請負業者賠償責任保険は、工事現場での作業中に発生する第三者への損害を補償する保険です。例えば、作業中に通行人にケガを負わせてしまった
埋設物自体の撤去・処分費用は保険でカバーされない

工事中に見つかった埋設物自体の撤去・処分費用は、第三者への賠償ではないため、残念ながら請負業者賠償責任保険ではカバーされません。
これは、契約不適合責任の問題として扱われるケースが多くあります。
民法における契約不適合責任
民法第562条(買主の追完請求権)では、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求できると定められています。
地中埋設物が発見された場合、土地の買主は売主に対して契約不適合責任を追及できる可能性があります。
契約書における免責特約の効力には限界がある
ここで注意すべきは、契約書で「瑕疵担保責任免除特約」や「契約不適合責任免除特約」を設けていても、その効力が否定される場合があるという点です。
判例を見ると、免除特約があっても以下のようなケースでは無効とされることがあります:
- 売主が地中埋設物の存在を知っていたにもかかわらず、買主に告知しなかった場合
- 免除特約の説明義務を怠り、買主が十分に理解していなかった場合
- 当事者の合理的な期待を著しく害する内容である場合
契約書で明確にすべき事項
そこで役立つのが、専門の特約や保証サービスです。
民間の「埋設廃棄物/地中障害物保証」などを利用すれば、想定外の撤去費用リスクを保証会社に移せます。
また、契約書においては、以下のような条項を明記することが重要です。
千葉県宅地建物取引業協会東葛支部の契約書文例では、以下のような条項が推奨されています。
「本物件の土地に地中埋設物、産業廃棄物の埋設または土壌汚染等が存在することが判明した場合には、売主の責任と負担において、これを撤去、改良等しなければならない。」
このように、発見された埋設物の撤去責任と費用負担を明確にしておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
なお、地中埋設物の撤去作業では、重機操作や掘削中の労働災害リスクもあります。
従業員を守るための「労災保険」への加入は事業主の義務であり、万が一の高額賠償リスクに備える「使用者賠償責任保険」も併せて検討しましょう。
地中埋設物の保険で補償される範囲と対象外のケース
保険の補償範囲にはルールと限界があります。
自社に必要な備えを考えるためにも、まずは保険金が支払われるケースと、支払われないケースを具体的に見ていきましょう。
どこまで補償?保険金が支払われる具体例

請負業者賠償責任保険で補償されるのは、原則として「第三者の身体や財物に与えた損害」です。
補償される想定ケース
ケース1:水道管を破損し、隣家の床下が浸水
掘削作業中に誤って水道管を破損し、隣家の床下が浸水した場合、水道管の修理費用や隣家の床下乾燥・補修費用など、数十万円から100万円程度の損害が請負業者賠償責任保険から支払われます。
ケース2:ガス管損傷による周辺住民の避難
重機での掘削中にガス管を損傷し、ガス漏れが発生した場合、ガス管の修理費用に加え、周辺住民が一時避難を余儀なくされた際の見舞金や宿泊費用など、100万円以上の賠償責任が発生する可能性があります。
ケース3:電線切断による停電
地中の電線を誤って切断し、周辺地域が停電した場合、電線の復旧費用と、停電により営業停止となった店舗への損害賠償など、数百万円規模の補償が必要になることがあります。
これらはすべて第三者(ガス会社、水道局、電力会社など)が所有する地中埋設物を破損したケースです。
ただし、工事対象地内に残された古い埋設物(浄化槽、井戸、コンクリート基礎など)自体の撤去・処分費用は対象外なので注意しましょう。
民法における注文者の責任
民法第716条(注文者の責任)では、「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。
ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」と定められています。
つまり、施主(注文者)は原則として請負人が起こした事故の責任を負わないのが基本ですが、注文や指図に過失があった場合には責任を負うことになります。
意外な注意点!保険金が支払われない主なケース

契約には必ず「免責事由」という、保険金が支払われないケースが定められています。
特に以下の点には注意が必要です。
1. 地下埋設物損壊不担保特約
前述のとおり、保険料を安くする代わりに、地下埋設物損壊を補償対象外とする特約です。
解体業者にとっては致命的になりかねないため、契約時に必ず確認しましょう。
2. 埋設物自体の撤去費用
発見された浄化槽やコンクリート基礎などの撤去費用は、第三者への賠償ではないため補償対象外です。
これらは契約不適合責任の問題として扱われます。
3. 有害物質・汚染
アスベスト飛散や土壌汚染といった事故も、多くの場合免責事項です。
専用の「環境汚染賠償責任保険」などで備える必要があります。
解体工事保険の免責事項の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。
解体工事の保険と免責|「保険が効かない」5つのケースと対策
「解体工事の作業対象である建物そのものは、多くの保険で補償の対象外になる」 実は、解体事業者が加入する賠償責任保険には、このように補償が適用されない「免責事項」がいくつも定められています。 このルールを知らないまま万が一の事態が起きれば、損害が自己負担となり、会社の経営に大きな影響を与えることも
契約次第で減額も?知っておきたい注意点
もしもの時、保険金が想定より少なくなることもあります。
その原因は、ほとんどの場合、契約内容にあります。
- 保険金額(支払限度額)
そもそも設定額が低ければ、それを超える損害は補償されません。リスクに見合った十分な金額設定が重要です。 - 免責金額(自己負担額)
設定した免責金額以下の損害は、全額自己負担です。 - 通知義務違反
事故発生後、正当な理由なく保険会社への報告が遅れると、保険金が減額される可能性があります。
保険を使うと翌年の保険料は上がるのか

保険金を請求すると、翌年度からの保険料に影響が出る可能性はあります。
多くの保険には、無事故が続くと保険料が割り引かれる「無事故割引」があります。
保険金を請求するとこの割引がなくなったり、保険料が割増になったりすることがあります。
ただし、保険は万一の際に事業を守るためのもの。
将来の保険料を気にして請求をためらうのは本末転倒です。
むしろ、日頃からの安全管理への取り組みが、長期的に保険料へ良い影響を与えることもあります。
解体工事の保険料をうまく抑える3つの方法

補償内容を維持しつつ、保険料という固定費を上手に削減する方法も存在します。
ここでは3つの視点からご紹介します。
- 補償内容の最適化
- 団体割引の活用・安全対策による割引制度
- 複数プランの比較検討
方法1:自社の実態に合わせて補償内容を最適化する
契約内容を見直し、自社にとって本当に必要な補償に絞り込むことで、保険料を削減できます。
有効なのは「免責金額(自己負担額)の引き上げ」です。
免責金額を高く設定すれば、その分保険料は安くなります。
小規模な損害は自社で対応し、保険は大規模な事故に備える、という考え方です。
ただし、コスト削減を優先するあまり、解体工事特有の必須リスク(地中埋設物、近隣賠償など)を安易に削らないよう、専門家と相談しながら慎重に見極めることが欠かせません。
方法2:団体割引や安全への取り組みで有利な条件を
補償内容の見直し以外にも、保険料を抑える方法はあります。
まず「団体割引」を確認しましょう。
建設業協会などが組合員向けに割安な団体保険プランを用意していることがあります。
次に、日頃の安全管理への取り組み、すなわち「企業信用力」のアピールです。
優良事業者向けの割引制度を設けている保険会社もあり、無事故記録や安全管理体制などが評価されれば、割引につながることがあります。
方法3:保険のプロに相談し、費用対効果の高いプランを選ぶ
加入する保険会社やプランを見直すだけでも、保険料は大きく変わることがあります。
同じ補償内容でも、どの保険会社の商品を選ぶかで、年間の保険料が数十万円単位で変わることも決して珍しくありません。
現在の保険に長年入り続けている会社ほど、一度専門家の視点で見直すことで、大きな費用削減が期待できます。
工事保険の金額相場は?必要補償・保険料を安くする方法を専門家が解説
建設現場は高所作業や大型機械の使用など、事故リスクが他の業種と比べて格段に高いといわれます。 万が一、大きなけがや資材の破損、近隣建物への被害などが起こった場合、数千万円から数億円の賠償金が発生することも珍しくありません。 実際に「もし同じ事故が自社で起きたら、とても自己資金だけではまかなえない
まとめ:地中埋設物リスクに適切に備えよう
解体工事での地中埋設物のリスクに備えるには、保険の補償範囲を正しく理解することが重要です。
- 地中埋設物の撤去費用は数十万円から数百万円
浄化槽(30万円〜80万円)、コンクリート基礎(50万円〜150万円)、地下タンク(100万円〜300万円)など、複数見つかった場合は工事予算を大きく圧迫します。 - 「地下埋設物損壊不担保条項」の有無を必ず確認
この特約が付帯されていると、第三者所有の埋設物(ガス管、水道管など)が補償対象外になります。 - 埋設物自体の撤去費用は基本保険の対象外
見つかった浄化槽や井戸などの撤去費用は賠償保険では補償されません。契約書で撤去責任と費用負担を明確にしましょう。 - 契約不適合責任の免除特約には限界がある
売主が埋設物の存在を知っていた場合や説明義務を怠った場合は、特約があっても無効とされることがあります。
自社に最適な保険プランの選定や、契約内容の見直しについては、建設・解体業の保険に詳しい専門家への相談をおすすめします。
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