
2025.08.29
「うちの会社は、ちゃんと工事保険に入っているから大丈夫」
解体工事におけるアスベスト対策について、もし、そうお考えでしたら、一度お手元の保険証券を確認してみてください。
その保険証券の小さな文字で書かれた部分に、「アスベスト(石綿)による損害は補償の対象外」という一文が見つかるかもしれません。
実は、多くの事業者が加入されている一般的な工事保険では、アスベストが原因の事故は補償の対象外となっていることがほとんどなのです。
この記事では、そんな「もしも」の事態に備えるために、工事保険のプロが分かりやすく解説していきます。
なお、解体工事の保険全体を網羅的に理解したい方は、まず以下の記事で全体像を把握いただくと、よりスムーズに読み進められます。
その中でも、解体工事の特有リスクについては、以下の記事で網羅的に整理しています。
目次
実は、解体工事に潜むアスベストのリスクは、年々、より大きなものになっています。
そのため、元請業者様には、協力会社の安全管理体制も含めて、より一層の注意が求められるようになっています。
もし、アスベストによる健康被害や飛散事故が起きてしまうと、損害賠償額が数千万円から億単位にのぼるケースも考えられます。
「うちはしっかり保険に入っているから、万一のときも安心だ」
多くの方がそう信じていますが、ここに一つ、注意しておきたい点があります。
ほとんどの事業者が加入している、いわゆる「工事保険」や「賠償責任保険」。
これらは、工事中の事故によって第三者の身体や財産に損害を与えてしまった場合に備えるための保険です。
しかし、これらの保険の約款をよく読むと、「アスベスト、PCB、ダイオキシン等の有害物質による損害については、保険金をお支払いしません」という趣旨の免責条項が、ほぼ必ず書かれています。
つまり、普段加入している保険が、アスベスト関連の事故では使えない可能性がある、ということです。
こうした保険の「効かない」ケース(免責事項)については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
「解体工事の作業対象である建物そのものは、多くの保険で補償の対象外になる」 実は、解体事業者が加入する賠償責任保険には、このように補償が適用されない「免責事項」がいくつも定められています。 このルールを知らないまま万が一の事態が起きれば、損害が自己負担となり、会社の経営に大きな影響を与えることも
なぜ、これほど大きなリスクであるはずのアスベストが、一般的な保険では補償されないのでしょうか。
主な理由は2つあります。
この点は、ぜひ知っておいていただきたい大切なポイントです。
では、私たちはこのリスクにどう向き合えばよいのでしょうか?
アスベストに関連する事業リスクは、大きく分けて、
の3つに分類でき、それぞれに対応する保険や保証制度があります。
一つずつ、具体的に見ていきましょう。
もし、解体工事中にアスベストが飛散し、近隣住民の方の健康や周辺の建物に影響を与えてしまった場合、その賠償責任は非常に大きくなる可能性があります。
特に、元請事業者は下請けが起こした事故であっても、その責任を免れることはできません。
この第三者への賠償リスクに備えるために現在利用できる主な手段が、AIG損害保険の事業賠償・費用総合保険(ALL STARs)の「アスベスト飛散事故補償特約」です。
これは、一般的な賠償責任保険では対象外だったアスベスト飛散事故を正面から補償する特約です。
具体的には、以下のような費用が補償対象となります。
石綿損害拡大防止費用 | 飛散を食い止めるための養生シート補修など、緊急措置にかかった費用 |
---|---|
石綿損害見舞費用 | 近隣の住民や事業者への見舞金 |
石綿除去等費用 | 近隣の建物や物品に付着したアスベストの除染や廃棄にかかる費用 |
この特約を付けておくことで、これまで自社で対応するしかなかった飛散事故後の初動対応から、周辺への補償までカバーできるようになります。
AIG損害保険株式会社の ALL STARsは当社でもお取り扱いしております。
この制度は、当初の想定よりもアスベストの量が多く、除去費用が追加でかかってしまう、という事態に備えるための保証制度です。
解体工事では、設計図書には記載がなかった場所から、新たにアスベストが見つかるケースも珍しくありません。
そうなると、工期の延長や追加の除去費用が発生し、元請業者様や施主様にとって大きな負担となってしまいます。
こうした「想定外のアスベスト出現によるコスト増」というリスクに備える国内初のサービスが、損害保険ジャパンと環境コンサルティング会社のフィールド・パートナーズが共同開発した「アスベストコストキャップ保証」です。
これは保険というより「保証サービス」に近い仕組みで、事前に専門家によるリスク評価を受けた上で、万が一、想定を超えるアスベスト除去費用が発生した場合でも、その超過分が保証されます。
これにより、事業者は「これ以上の費用はかからない」という上限額を確定させた上で、安心して工事を進めることができます。
プロジェクトの予算オーバーという直接的な経営リスクを防ぐ上で、非常に役立つ制度です。
アスベストを扱う作業は、作業員の健康にとって大きなリスクを伴います。
そのため、従業員や一人親方への労災対策は、事業者にとって大切な責務です。
このリスクに対する基本の備えは、国が管掌する「労働者災害補償保険(労災保険)」です。
従業員が業務を原因としてアスベスト関連の病気になった場合、治療費や休業中の給与の一部が労災保険から支払われます。
ただし、それだけではカバーしきれない高額な賠償リスクに備えるために、民間の「労災上乗せ保険」を組み合わせるのが現在の基本的な考え方です。
この2つの保険の役割と具体的な仕組みについては、次の章で詳しく解説します。
3つのリスクのうち、特に経営者や従業員の人生に直接関わってくるのが、この「労災保険」の問題です。
国の制度だからと安心するのではなく、その仕組みと、どこまでカバーされるのかを正しく理解しておくことが大切です。
国の「労災保険」は、労働者を守るための強力なセーフティーネットです。
業務中や通勤中のケガはもちろん、アスベスト関連の疾病のように、業務が原因で発症した病気も補償の対象となります。
主な補償内容は以下の通りです。
療養(補償)給付 | 治療にかかる費用は、原則として全額が給付されます。健康保険のような自己負担はありません。 |
---|---|
休業(補償)給付 | 療養のために働けず、給与を受けられない日が4日以上続く場合、4日目から休業前の給与の約8割に相当する額が支給されます。 |
障害(補償)給付・ 遺族(補償)給付 |
後遺障害が残った場合や、死亡に至った場合には、その後の生活を支えるための年金や一時金が給付されます。 |
このように、従業員に対する補償は手厚いものですが、注意すべき点があります。
この制度は、あくまで「労働者」を対象としています。
つまり、会社の経営者や役員、そして一人親方といった方々は、原則としてこの補償の対象外なのです。
これらの立場の方が業務中の災害から身を守るには、「特別加入制度」に自ら申請し、加入しておく必要があります。
もしこの手続きを忘れていると、万が一の際に公的な補償が受けられず、治療費や休業中の収入もすべて自己負担になってしまう可能性があります。
国の労災保険が手厚いセーフティーネットであることは事実です。
しかし、それだけでは会社が負うべき責任のすべてをカバーできるわけではない、という点も知っておく必要があります。
もし、労災事故の原因が会社の「安全配慮義務違反」にあると判断された場合、被災した従業員やその遺族から、民事上の損害賠償を請求される可能性があります。
国の労災保険から給付されるのは、治療費や休業補償といった実費補填が中心です。
精神的苦痛に対する「慰謝料」や、事故がなければ将来得られたはずの収入である「逸失利益」といった、労災保険の枠を超える部分については、会社が直接支払う責任を負います。
過去の判例では、数千万円から1億円を超える賠償命令が出ることも珍しくありません。
この、会社の存続にも影響を与えかねない賠償リスクに備えるのが、民間の「労災上乗せ保険(業務災害総合保険)」に含まれる「使用者賠償責任補償」なのです。
これに加入しておくことで、万が一、高額な損害賠償を命じられた場合でも、その賠償金を保険でカバーできます。
従業員を守り、そして会社そのものを守るためにも、「国の労災保険」と「民間の上乗せ保険」は、セットで加入しておくことをお勧めします。
国の労災保険だけでは不足する補償や、使用者としての賠償責任リスクに備える「労災上乗せ保険」の重要性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
解体工事は建設業の中でも特に事故リスクが高く、墜落や倒壊、重機との接触など、命に直結する労災が多発しています。 こうした現場で従業員や協力会社を守るために欠かせないのが「労災保険」です。 事業者にとっては法律で義務づけられているだけでなく、事故が発生した際に会社の存続を左右するほど重要な備えでも
ここまで、アスベストという特殊なリスクへの向き合い方を解説してきました。
しかし、このアスベストの問題は、自社のリスク管理全体を見直す良いきっかけになるかもしれません。
これを機に、アスベスト以外のリスクも含めて、現在加入している工事保険が本当に会社の状況に合っているのか、一度見直してみてはいかがでしょうか。
まずは、お手元にある保険証券を広げ、内容を隅々まで確認することから始めてみましょう。
「石綿」の文字を探すのはもちろんですが、それ以外にも見落としがちなポイントがいくつかあります。
これらの項目が、ご自身の保険でどのように扱われているかを確認するだけでも、潜んでいるリスクが見えてくるかもしれません。
解体工事の保険見直しは以下の記事でも解説しています。
解体工事は、数ある建設工事の中でも、特に事故のリスクが高いと言われています。 建物を取り壊していくという作業には、どうしても予測しきれない危うさや、隣接する建物への影響なども考えなくてはいけないからです。 そんな解体工事を営む経営者の方や、現場の安全管理を担う責任者の皆様は、 「うちの会社の保
「補償を手厚くすれば、当然、保険料も高くなる」。
そうお考えになるのはもっともです。
しかし、保険料は契約の仕方一つで大きく変わることがあります。
その代表例が「団体割引」の活用です。
多くの建設業組合や商工会議所では、会員向けに団体契約の保険制度を用意しています。
こうした制度を利用すると、個別に契約するよりも保険料が大幅に割安になるケースが多く、条件次第では30%から、時には80%近くも保険料を抑えられることがあります。 (参考:マルエイソリューション)
もし現在、保険会社と直接、個別に契約しているのであれば、一度、所属している組合などの制度を確認してみることをお勧めします。
補償内容はそのままに、固定費である保険料を削減できるかもしれません。
アスベスト特約の要否、複雑な免責事項の確認、適切な補償額の設定、そして利用できる割引制度の選定…。
これらすべてを経営者様ご自身で判断し、最適解を導き出すのは、簡単なことではありません。
保険の世界は、私たちが思う以上に複雑で、専門的な知識が求められる場面が多くあります。
だからこそ、事業用の保険は専門の代理店に相談することが、結果的に最も確実で安心な方法だといえるでしょう。
専門家は、単に保険商品を売るだけではありません。
貴社の事業内容や工事の規模、潜在的なリスクを客観的に分析し、本当に必要な補償と、逆に削っても問題ない補償を仕分けしてくれます。
複数の保険会社の商品の中から、最適な組み合わせを提案し、気づかなかったリスクの「穴」を塞いでくれるはずです。
ここまで解説してきたように、解体工事におけるアスベストのリスクは、一般的な工事保険の常識が通用しない、特殊で注意が必要な問題です。
本記事の重要なポイントを、最後にもう一度振り返りましょう。
これらの対策は、どれか一つだけ行えば良いというものではありません。 自社の事業内容に合わせて、必要な備えを複合的に構築していくことが大切です。
「うちの会社には、どの保険の組み合わせがベストなんだろう?」
「そもそも、今の保険証券のどこをどう見ればいいのか分からない…」
もし、こうしたお悩みや疑問をお持ちでしたら、ぜひ一度、工事保険比較Web(マルエイソリューション)でご相談ください。
長年の経験と豊富な専門知識を持つプロフェッショナルが、お客様の会社の状況やご要望を丁寧にヒアリングし、最適な保険プランとコスト削減策をご提案します。
ご相談やお見積もりは無料です。
オンラインでのご相談も承っておりますので、全国どこからでもお気軽にお問い合わせください。