閉じる
knowledge

下請けの施工ミスで損害賠償請求されたら?元請けの責任と求償の仕組みを解説

下請けが施工した建物に欠陥が見つかり、施主から損害賠償請求を受けている。

「下請けのミスなのに、なぜ自社が責任を負わなければならないのか」と感じている方もいるでしょう。

結論からお伝えすると、下請けのミスで全額を施主に支払ったとしても、負担した費用は後から下請けへ求償できる仕組みがあります。

下請けのミスでも施主対応は元請けが担うため、責任整理と初動の順番を早めに押さえておく必要があります。

この記事でわかること
  • 施工ミス発覚後に元請けが取るべき初動対応の順番と要点
  • 元請けから下請けへ費用を求償するときの基本ルール整理
  • 下請けのミスでも元請けが施主に責任を負う法的な根拠
  • 下請けの倒産や資力不足で求償が難しくなる代表例
この記事を書いた人
後藤 文男

国内大手損害保険会社で法人営業職を経験後、2013年に入社。補償内容の見直しや保険を活用した経費削減の提案など、損害保険分野のリスクコンサルを得意としている。
【保有資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)

損害賠償請求を受けた元請けの対応手順

下請けのミスであっても、施主との契約上の賠償責任は元請けが負います。「下請けがやったこと」は施主への言い訳になりません。施主から請求が来た以上、元請けとして対応するのが法的な立場です。

そのため、まず現場に急行して謝罪し、補修・減額・賠償の対応案を施主に示してください。

下請けへの責任追及はその後でも間に合います。施主を待たせたまま「下請けに確認してから」と動くと、その間に信頼が壊れてその後の収拾が難しくなります。施主対応を先に動かしながら、並行して下請けから事実確認と契約書を回収してください。

施主対応は元請けが窓口を持つ

施主への窓口対応は元請けが行います。

下請けに任せてはいけません。

初動で窓口を一本化すると、争点を早めに整理しやすくなります。

対応が遅れるほど、施主の被害感情は大きくなりがちです。

とくに在宅時間が長い施主への配慮は欠かせないポイントです。

保険や賠償の相談先を早めに持つと、動き出しが遅れにくくなります。

現場に急行し写真撮影で証拠を残す

まず現場に急行し、施工ミスの実態を自分の目で確認します。

現場の状況を確認し、写真を撮るなどして記録に残してください。

施工ミスの箇所は、写真や動画で記録に残しておくと、後々の協議や法的手続きで役立ちます。

施工ミスの実態や生じた損害の内容を具体的に把握しましょう。

必要に応じて施工ミスのある箇所を写真や動画で撮影したり、生じた損害についてメモを残したりしておくと、状況の整理がしやすくなります。

証拠保全で押さえるべきポイントは次の3点です。

  • 施工ミスの箇所を複数の角度から撮影する
  • 損害の範囲と程度を記録する(メモや動画も活用)
  • 施主の生活状況や要望を把握する

施主の生活状況や気持ちも把握し、信頼関係をつなぎ止めることが大切です。

必要に応じて専門家(建築士など)の判断を仰ぐことも検討しましょう。

専門家の意見は、施主への説明や下請けとの協議で説得力を持ちます。

施主へ謝罪し補修・減額・賠償の対応案を示す

施主に謝罪し、具体的な対応案を提示します。

対応方法は主に3つです。

  1. 補修工事
  2. 代金の減額
  3. 損害賠償

原因や対応方法などを検討してから施主と話し合う準備をしてください。

今後の対応について施主と協議します。

合意した内容は必ず書面に残しましょう。

口頭の約束は後々トラブルになります。

直せるものはすぐに直すこと。

対応が後になるほど施主の精神状態が悪化します。

施主に対して積極的に代替案を提案することで、契約解除のリスクを避けられます。

修補できない場合には代金減額や損害賠償を含めた具体的な解決策を示す必要があります。

誠意を持って対応することが、施主との信頼関係を守る最短の道です。

下請けから事実確認と契約書を回収する

施主への窓口対応は元請けが行いますが、下請けからも情報を集める必要があります。

施主との協議の前に、下請けとの認識を合わせておくことが重要です。

契約書で責任割合の定めを確認する

契約書(請負契約書など)を探してください。

契約書の内容(損害の分担についての定めがあるか)を確認します。

契約書がある場合、基本的には、契約書のとおり責任割合が決まります。

納得できなかったり、協議が調わなかったり、契約書に定めがなかったりするときには、法的手続きを検討することになります。

下請けから施工ミスの原因と経緯を聞き取る

下請けの担当者から施工ミスに関する事実関係を聞き取ります。

原因、経緯、下請け側の認識を把握してください。

実際に施工事業者によるミスである場合もある一方で、仕様書がはじめから誤っていた場合や発注者の勘違いである場合、元請け事業者から下請け事業者に対する伝達ミスである場合など、さまざまな原因が考えられます。

施主に払った費用は、下請けへ求償できる

元請けが施主に対して負担した損害賠償金の一部を、施工ミスをした下請けに請求できる「求償」の仕組みを解説します。

求償の基本的な考え方から、過失割合の目安となる裁判例、実際の費用負担事例まで順に見ていきます。

さらに、求償が難しい場面や、求償できないときの費用対策、話し合いで解決できない場合の法的手続きまで紹介します。

求償の計算方法と過失割合

求償とは、元請けが施主に対して負担した損害賠償金の一部を、施工ミスをした下請けに支払いを求めることです。

求償の法的根拠は、元請けと下請けの請負契約に基づきます。

元請けは、請負契約によって下請けに仕事を依頼しているので、下請けの仕事にミスがあれば、下請けとの請負契約に基づいて下請けに責任を問えます。

ただし、全額を下請けに求償できるわけではありません。

元請けにも工事を監督する立場としての責任があるため、100%が下請けの責任とは言えないのです。

過失割合(寄与度)に応じて求償額が決まります。

たとえば、元請けが施主に1,000万円支払った場合、過失割合が3:7なら700万円を下請けに求償できる、という計算になります。

求償の仕組みを整理すると次のとおりです。

  • 元請けが施主に全額を支払う
  • 過失割合に応じて下請けに一部を請求する
  • 契約書に定めがあれば契約書に従う
  • 契約書に定めがなければ、ミスの内容や管理体制から判断する

求償の可否や金額は、元請けと下請けの契約内容と、個別の事案によって決まります。

下請けの倒産や資力不足で求償が難しい場合もある

下請けが倒産した場合、求償そのものが不可能になる現実があります。

具体的な事例として、下請けが倒産し、社長も行方不明という例もあります。

また、零細企業では賠償金を支払う資力がないことも多いです。

下請けには資力がないことも多く、いったんは元請けがすべてを賠償することが少なくありません。

求償が難しい主な場合は次の2つです。

  • 下請けが倒産し、法人格が消滅している
  • 下請けに賠償金を支払う資力がない

こうしたリスクに備え、契約時に下請けの財務状況を確認しておくことも一つの対策です。

求償できない場合は工事保険を見直す方法もある

求償が難しい場合に備え、工事保険の見直しを早めに検討しておく方法もあります。

施工ミスに関連する工事保険で費用負担を抑えられる場合があります。

補償範囲や保険料の考え方は、以下の親記事で詳しく確認してください。

あわせて読みたい
【数百万の損失回避】工事の施工ミスは工事保険で備える!賠償責任・工事保険で負担を軽減

建設現場では常に高い品質が求められますが、どんなに注意しても施工ミスを完全になくすのは難しいものです。 もしミスが起きてしまうと、工事のやり直し費用や賠償金の負担だけでなく、会社の信頼を大きく損なうことにもなりかねません。 そんなとき、保険をうまく活用すれば、トラブルに伴う費用負担を軽くできるの

協議で解決しないときはADR・調停・訴訟を検討

下請けとの協議が調わない場合は、ADR、民事調停、訴訟といった法的手続きも考えられます。

3つの手続きの違いは次の表のとおりです。

手続き 向く場面 弱点
ADR(建設工事紛争審査会など) 費用を抑えたい、早期解決を望む 相手の協力が必要、強制力がない
民事調停 金額が大きい、やや複雑なトラブル 相手が欠席すると不成立
訴訟 話し合いの余地がない、強制力が必要 時間と費用がかかる、高度な専門性が必要

ADRは建設工事紛争審査会の手続きで、あっせんは約4か月、調停は約6か月が一つの目安です。

民事調停では建築分野の専門家が入ることもあります。

どれを選ぶかは争点と相手方の対応次第なので、迷う場合は弁護士への相談も検討しましょう。

出典:「建設工事紛争審査会の概要」(国土交通省)

下請けの施工ミスでも、元請けが施主に責任を負う

下請けの施工ミスであっても、施主に対しては元請けが全責任を負うという法的原則を解説します。

ここでは、施主に対する責任がなぜ元請けに集中するのかを整理した上で、施主が下請けに直接請求しにくい理由まで順に見ていきます。

「履行補助者」という考え方と、施主が下請けに直接請求できない理由を明確にします。

施主と契約しているのは元請け(下請けは「履行補助者」)

施主が契約を締結しているのは元請けであり、下請けとは契約関係にありません。

法律の世界では、下請けは元請けの手足として働く存在、つまり「履行補助者」と見なされます。

民法第224条では、債務人の代理人や使用人が債務の履行について故意または過失があった場合、債務人は自己の故意または過失と同一の責任を負うと規定されています。

請負契約の目的は「仕事の完成」です。

その過程で誰が施工するかは、原則として問われません。

元請けは自らの判断と責任で下請けに仕事を出せる以上、下請けのミスも元請けの責任となるのです。

たとえば、元請けが施主と「新築住宅を建てる」という契約を結んだ場合、施主が期待しているのは「契約どおりの住宅が完成すること」です。

その施工を元請けが自ら行うか、下請けに任せるかは、元請けの経営判断。

施主にとっては関係のないことです。

したがって、下請けが施工ミスをした場合でも、施主に対して責任を負うのは元請けとなります。

施主が下請けに直接請求できない理由

施主と下請けの間には契約関係がないため、施主からの請求窓口は原則として元請けになります。

したがって、施主からの損害賠償請求は元請けが矢面に立って受けることになります。

施主は、施工が下請けによって行われたかを知らない(関心がない)ことが通常です。

あくまで、施主の契約の相手方は元請けであるため、施主が引き渡しを受けた物件に欠陥や不具合がある場合、施主からの問い合わせやクレームは、元請け宛てに来ることがほとんどです。

元請けが施主に負う責任の種類

元請けが施主に対して負う具体的な責任の内容を解説します。

契約の締結時期によって「契約不適合責任」または「瑕疵担保責任」のいずれかが適用されます。

令和2年4月1日を境に法律が変わっているため、契約日がいつかで適用される責任が変わります。

工事現場での事故の場合は「使用者責任」が発生することもあります。

ここでは、それぞれの責任の内容と、施主が行使できる権利の範囲を見ていきます。

契約不適合責任(令和2年4月1日以降の契約)

契約不適合とは、元請けが施主に引き渡した物件が「契約の内容に適合しない」ことをいいます。

たとえば、契約で合意した性能や仕様を満たさない場合などが該当します。

請負契約では民法559条により売買の契約不適合責任のルールが準用されています。

契約不適合が認められれば、施主は、元請けに対し、① 修補請求、② 損害賠償請求、③ 代金減額請求、④ 契約の解除を行えます。

契約不適合責任の時効期間は、物件の引き渡しから10年、施主が契約不適合を発見してから5年です。

しかし、この期間内であっても、契約不適合を発見してから1年以内にその旨を元請けに通知しなければ、施主は権利を行使できなくなります。

民法559条、636条、637条を参照してください。

出典:民法(e-Gov法令検索)

瑕疵担保責任(令和2年3月31日以前の契約)

瑕疵とは、物件が通常備えるべき性能を欠いていることをいいます(契約不適合と同じ意味)。

施主との請負契約が令和2年3月31日以前に締結されたものである場合には、改正前の旧民法が適用され、追求され得る責任は、契約不適合責任ではなく瑕疵担保責任(改正前民法634~640条)となります。

契約不適合責任と比べると、瑕疵担保責任は施主が使える権利の範囲が狭く、発見後1年以内に権利行使まで必要になる点が違います。

契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いは次の表のとおりです。

項目 契約不適合責任 瑕疵担保責任
適用契約時期 令和2年4月1日以降 令和2年3月31日以前
行使できる権利 ①修補請求 ②損害賠償請求 ③代金減額請求 ④契約解除 ①修補請求 ②損害賠償請求 ③契約解除(建築工事では不可)
時効・通知期間 引き渡しから10年、発見から5年。発見から1年以内に通知が必要 引き渡しから10年。発見から1年以内に権利行使が必要(通知では足りない)

出典:民法(e-Gov法令検索)

元請けが下請けを指揮監督していると使用者責任が発生する

元請けは下請けを使って仕事の範囲を広げている以上、利益だけでなく損害も分担すべきだ、という考え方にもとづく責任を負います。

これを「使用者責任」(民法715条)といいます。

使用者責任が発生するのは、元請けが下請けの従業員に対して直接または間接に指揮監督関係を持つ場合です。

たとえば、工事現場に元請けの社員を現場責任者として派遣し、下請けの従業員に指示を出している場合が該当します。

工事現場での事故(重機の操作ミス、工具の落下による通行人の負傷など)で適用される可能性があります。

いったんは元請けが全額を賠償し、過失割合に応じて下請けに求償する流れになります。

出典:民法(e-Gov法令検索)

今後のトラブルを防ぐ予防策

今回のトラブルが落ち着いたら、次の現場に向けて見直しておきたい対策をまとめます。

予防策は次の2点です。

  • 契約書で責任分担を明文化する
  • 完成後に見えない箇所を優先確認する

契約書での責任分担の明確化と、現場管理の徹底が特に重要です。

契約書で施工ミス時の責任分担を明確にしておく

下請けとの契約書に、施工ミスが発生した際の損害賠償責任や費用分担を明確に記載してください。

責任分担は実際の分担に合わせて明確化します。

一方に過度な負担を押しつける条項は後の紛争原因になりやすいため、注意が必要です。

契約書で適正な内容を定めていれば、リスクを回避できます。

その他の予防策としては、下請けの慎重な選定(実績、評判の確認)や、適正な請負代金の支払い(手抜き工事の予防)も挙げられます。

建築工事は、詳細な仕様書などがないままに進行することもあります。

書面などで仕様が明確になっていなければ、認識の齟齬や「言った・言わない」などが原因でトラブルに発展するおそれがあるでしょう。

建築工事の受注にあたっては、可能な限り事前に仕様を明確にすることがすすめられます。

途中で仕様の変更が生じた際は、変更後の図面などについても発注者の押印などを受けることで、この点に関する齟齬も避けやすくなります。

現場管理と抜き打ち検査で施工ミスを早期発見

下請けに任せきりにせず、元請けが現場をマメに確認してください。

施主との契約や要望に合致しているか、工事が契約どおりに進んでいるかを常日頃からチェックします。

現場確認では、完成後に見えなくなる箇所を優先して見ることが大切です。

たとえば基礎のかぶり厚は、打設前の確認で見落としを防ぎやすくなります。

かぶり厚(鉄筋からコンクリート表面までの距離)は基礎工事でもっとも見落とされやすい施工不良です。

建築基準法で定められた基準は、土に面する底盤部分で60mm以上、基礎立ち上がり外周部で40mm、内周部で30mm以上が必要です。

引き渡し前に補修対応できれば、施主からの信頼を損なうことなく問題を解決できます。

まとめ

下請けの施工ミスでの責任の所在と初動対応について解説してきました。

この記事のポイント
  • 下請けの施工ミスでも施主への責任は元請けが負うのが原則
  • 元請けから下請けへの求償は原則として可能
  • 施工ミス発覚後は窓口一本化と証拠保全を早めに進める
  • 求償が難しいときは工事保険の見直しも検討する

下請けのミスでも施主に対しては元請けが責任を負いますが、過失割合に応じて下請けに求償できます。

初動しだいで、トラブルを早期解決に導けます。

法的な争点整理が必要な場合は弁護士に相談しましょう。

費用対策を検討する段階では、工事保険を見直す方法もあります。

あわせて読みたい
【数百万の損失回避】工事の施工ミスは工事保険で備える!賠償責任・工事保険で負担を軽減

建設現場では常に高い品質が求められますが、どんなに注意しても施工ミスを完全になくすのは難しいものです。 もしミスが起きてしまうと、工事のやり直し費用や賠償金の負担だけでなく、会社の信頼を大きく損なうことにもなりかねません。 そんなとき、保険をうまく活用すれば、トラブルに伴う費用負担を軽くできるの

工事保険比較WEBでは、国内外7社・40商品以上から必要な補償を公平な視点で整理できます。

まずは現在の契約内容や不安な補償範囲を整理した上で、無料のオンライン相談で備えの抜け漏れを確認してみてください。

この記事をシェアする

関連記事