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解体工事の保険で騒音・振動は補償されない?免責の理由と本当に必要な備えとは
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解体工事の保険で騒音・振動は補償されない?免責の理由と本当に必要な備えとは

「解体工事の騒音クレームは、保険で対応できるはずだ」

もし、そう考えているのであれば注意が必要です。

結論からいうと、解体工事にともなう騒音・振動・粉塵といった近隣トラブルは、原則として保険の適用対象外です。

そう聞くと、「一体何のための保険なのか」と疑問に思われるかもしれません。

この記事では、解体業の保険をあつかう専門的な立場から、騒音トラブルに保険が使えない明確な理由と、本当に備えるべき「突発的な事故」への正しい備え方を解説します。

この記事でわかること
  • 解体工事の騒音・振動トラブルに対する保険適用の原則
  • 保険が適用される「例外的なケース」と適用されない専門的な理由
  • 会社の経営に影響する「本当に備えるべき事故」の種類と具体的な備え
この記事を書いた人
後藤 文男

国内大手損害保険会社で法人営業職を経験後、2013年に入社。補償内容の見直しや保険を活用した経費削減の提案など、損害保険分野のリスクコンサルを得意としている。
【保有資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)

【結論】解体工事の騒音・振動・粉塵トラブルは原則「保険適用外」

粉塵が舞う建物の解体現場

多くの経営者が誤解しがちな「騒音・振動・粉塵」のトラブルが保険でカバーされないのには、主に2つの理由があります。

ここでは、保険の基本原則と契約上のルールからその理由を解説し、備えるべきリスクとの境界線を明確にします。

  • 「工事に通常ともなう事象」であり「突発的な事故」ではない
  • 保険契約(約款)の「免責条項」で明確に定められている

「工事に通常ともなう事象」であり「突発的な事故」ではないから

損害保険、特に事業者が加入する賠償責任保険が補償するのは、あくまで思いがけない突発的な事故によって生じた損害に限られます

これは保険のもっとも基本的な大原則です。

一方で、解体工事における騒音、振動、ある程度の粉塵の飛散は、作業をおこなううえで「通常、発生することが予見される事象」と保険会社から見なされます

つまり、「事故」ではなく、工事という事業活動に「付随する事象」と判断されるのです。

予見できるリスクに対しては、保険で補償するのではなく、事業者自身が防音シートの設置や散水といった予防策を徹底的におこない、発生を抑制・管理すべきである、というのが保険の基本的な考え方です。

保険契約(約款)の「免責条項」で明確に定められているから

「通常ともなう事象」という原則論に加え、ほとんどの請負業者賠償責任保険の契約書(約款)には、補償しないケースを定めた「免責条項」が存在します。

そして、その中には「騒音、振動、地盤沈下などによって生じた賠償責任」といった内容が明確に記載されているのが一般的です。

これは、契約上のルールとして、これらの事象が補償の対象外であることを示しています。

このような条項が設けられている背景には、騒音や振動による損害は発生頻度が高く、損害額の算定や工事との因果関係の証明が非常に難しいため、保険制度として安定的にカバーすることが困難であるという事情があります。

例外的に保険が適用されるケース|物理的損害・人格権侵害が起きた場合

原則として保険適用外となる騒音・振動トラブルですが、すべてが補償されないわけではありません。

騒音・振動が原因で「具体的な物理的損害」や「社会通念上、我慢の限界をこえる健康被害」が発生した場合には、特約によって補償対象となる可能性があります。

ここでは、その例外的な3つのケースを具体的に解説します。

ケース①:振動で隣家の外壁にひびが入った(物理的損壊)

振動そのものは補償されませんが、その振動によって「隣家の外壁に亀裂が生じた」というように、明確な物理的な損壊が発生した場合、話は変わってきます。

このケースは、振動が原因で「結果として生じた対物賠償事故」としてあつかわれる可能性があり、基本となる請負業者賠償責任保険でカバーされるのが一般的です。

ただし、保険金を請求する際には、工事の振動と壁の亀裂との間に明確な因果関係があることを証明する必要があり、また、保険契約に「振動・沈下等不担保」といった不利な特約が付いていないか、事前の確認が重要です。

ケース②:「受忍限度」をこえる騒音で健康被害が出た(人格権侵害)

「受忍限度」とは、社会生活を営むうえで、お互いに我慢すべきとされる迷惑の限度を指す法律上の考え方です。

解体工事の騒音が、条例などの規制基準を大幅にこえて長時間続き、近隣住民が不眠や頭痛といった健康被害を訴え、医師の診断書が提出されるなど、客観的に見て「受忍限度をこえる人格権の侵害」が認められた場合、慰謝料などの損害賠償責任を負うことがあります。

このような特殊なケースに対応するためには、標準の保険では不十分であり、「人格権侵害担保特約」といった特別なオプション契約が必要になる場合があります。

ただし、明確な身体障害の発生が証明されない限り、保険適用は難しいのが実情です。

ケース③:クレーム対応の初期費用(原因調査・応急措置など)

物理的な損壊や人格権侵害が法的に確定する前の段階でも、近隣からクレームを受ければ、その原因調査や被害拡大を防ぐための応急措置(ブルーシートでの養生など)が求められます。

こうした初期対応にかかる費用を補償する「初期対応費用担保特約」や「争訟費用担保特約」といったオプションが存在し、これらを付帯しておけば、弁護士への相談費用や原因調査費、お詫びの品の購入費などが一定額までカバーされるため、本格的な賠償問題に発展する前の段階で、すばやく誠実な対応ができます。

【重要】解体業者が本当に備えるべきは「予見できない突発的な事故」

ここまで見てきたように、日常的に発生しうる騒音・振動といった「予見できるリスク」は、自社の対策で最小化することが事業者の責務となります。

したがって、経営者が保険で本当に備えるべきなのは、重機の操作ミスによる物損事故や、資材の落下による人身事故といった、「万全の対策をしていても起こりうる、思いがけない突発的な事故」です。

こうした突発的な事故は、一度発生すれば大きな損害賠償に発展しかねません。

事業を守るためには、この「思いがけない突発的な事故」にこそ、保険で万全に備えるという視点が欠かせません。

【本題】4つの事故類型別に解説|解体工事のリスクと、それに備える必須保険

騒音などの「予見できるリスク」対策と並行して、経営者が本当に保険で備えるべきは、日々の安全管理を徹底していても起こりうる「突発的な賠償事故」です。

ここでは、解体工事で特に発生しがちな4つの事故類型を、具体例を挙げながら解説します。

これらが、あなたの会社が備えるべきリスクです。

①重機の操作ミス・資材の落下による「対物事故」

解体工事でもっとも頻繁に起こりうるのが、重機や資材による対物事故です。

ここでは、実際に起こってしまった事例を見ていきましょう。

事例1:重機操作ミスで他業者の車両を破損

解体作業中に重機を操作していたところ、誤って他業者の生コン車に接触し、傷をつけてしまったケースです。

事例2:解体工事の飛散物で隣の家の車を損傷

解体工事中に発生した小石や砂が隣の家にまで飛んでしまい、そこに停めてあった車に損傷を与えたというケースです。

基本の備えは「請負業者賠償責任保険」

こうした第三者の財物に対する損害賠償に備えるのが、「請負業者賠償責任保険」です。

工事中の対人・対物事故を包括的にカバーする、解体業で欠かせない保険です。

元請けや施主から加入証明の提出を求められることも多く、事実上、必須の保険といえます。

ただし、重要なのはその「中身」です。

自社の事業規模や工事内容に見合った十分な「保険金額」が設定されているか、そして、後述するような必要な「特約」が付帯しているか、保険証券を必ず確認しましょう。

②第三者や作業員が巻きこまれる「対人・人身事故」

物損事故以上に大きな影響があるのが、人の身体や生命にかかわる対人・人身事故のリスクです。

事故の相手が「第三者」か「自社の作業員」かによって、備えるべき保険が異なります。

たとえば以下のようなリスクが考えられます。

通行人などの第三者を負傷させてしまうリスク

解体作業中、どんなに注意を払っていても、突風で養生シートがめくれたり、資材の結束が緩んだりして、コンクリート片や工具が道路に落下するリスクは常に存在します。

もしその落下物が通行人に当たり、ケガをさせてしまえば、治療費や休業補償、慰謝料など、高額な損害賠償責任が発生します。

特に頭部などへの直撃は後遺障害につながる可能性も高く、企業の信頼を大きく損なう可能性があります。

このような通行人など第三者への対人事故の賠償責任は、対物事故と同様に「請負業者賠償責任保険」でカバーされます

死亡事故ともなれば賠償額は億単位にのぼる可能性もあり、対物事故以上に十分な保険金額の設定が不可欠です。

作業員が死傷するリスク(労働災害)

自社の従業員や下請け作業員の安全管理はきわめて重要です。

しかし、現場では高所からの転落など、作業員が重い後遺障害を負ってしまう事故が起こる可能性があります。

このような労働災害が発生すると、まず国の「労災保険」から治療費などが給付されます。

しかし、会社の安全配慮義務違反が問われれば、慰謝料や逸失利益など、労災保険だけでは不足する高額な損害賠償請求を受ける可能性があります。

この不足分に備えるのが「使用者賠償責任保険(労災上乗せ保険)」です。

従業員や下請け作業員(※)を守るためだけでなく、会社の経営を守るためにも、建設業においては必須の保険といえます。

※下請け作業員の労災事故も、元請け企業の管理責任が問われるケースが多いため、使用者賠償責任保険の対象に含まれます。

③レンタル重機など「借りてきた物」の破損事故

自社で保有していない重機や機材をレンタルして使用することも多いでしょう。

もし、そのレンタルした重機を操作ミスで転倒させ、破損させてしまったらどうなるでしょうか。

この場合、レンタル品は「他人から借りて管理している物=受託物」と見なされるため、前述の「請負業者賠償責任保険」では一切補償されません

修理費用は全額自己負担となり、数百万円の思わぬ出費につながるリスクがあります。

このリスクに備えるためには、「受託物賠償責任特約」というオプション契約を検討しましょう。

これは「請負業者賠償責任保険」に付帯する特約で、他人から預かった「受託物」を壊してしまった場合の損害を補償します。

レンタル機材を利用する機会が少しでもあるならば、付帯しておきたい特約です。

④工事完了後に発覚する「施工ミス」による損害(PL事故)

工事が無事に終わり、建物を引き渡した後も、施工ミスに起因する賠償リスクは残っています。

地中埋設物の残置による賠償リスク

解体工事でもっとも注意すべきリスクの一つです。

地中にコンクリート基礎や浄化槽などを残したまま引き渡してしまうと、後日、土地の売却後や新築工事の際に発覚します。

その場合、新たな土地所有者から、地中埋設物の撤去費用や、新築工事がストップしたことによる工期遅延の損害賠償を請求されます。

信頼を失うだけでなく、数百万単位の賠償に発展するケースも少なくありません。

施工したブロック塀の倒壊による賠償リスク

解体工事に付随して、境界を示すためにブロック塀を新たに設置することもあります。

しかし、その施工に鉄筋不足や基礎固めの甘さといった瑕疵があれば、数ヶ月後、あるいは数年後に突然倒壊し、隣家の車両や設備を破損させる大きな事故につながります。

引き渡し後の事故であっても、原因が自社の施工不良にあれば、賠償責任を免れることはできません。

工事完了後のリスクは「生産物賠償責任保険(PL保険)」で

このような工事完了後に、自社の仕事の欠陥が原因で発生した損害(PL事故)は、「請負業者賠償責任保険」の補償期間外となってしまいます。

このリスクをカバーするためには、「生産物賠償責任保険(PL保険)」という別の保険が必要になります。

「請負業者賠償責任保険」が工事期間中を対象とするのに対し、この保険は工事完了後を対象としており、補償する期間が明確に異なります。

元請け企業から加入を義務付けられることも多い、信頼を維持するためにも加入しておくべき重要な保険です。

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まとめ:解体工事の騒音・振動は保険適用外。事業を守る「突発事故」に備えよう

この記事では、解体工事における騒音や振動といったトラブルと保険の関係、そして本当に備えるべきリスクについて解説してきました。

「予見できるリスク」である騒音などは原則保険の対象外であり、事業者自身の対策が求められます。 一方で、重機による対物・対人事故や、ガス管破損のようなライフライン事故、工事完了後の施工ミスといった「予見できない突発的な事故」にこそ、保険は真価を発揮します。

この記事のまとめ
  • 騒音・振動・粉塵は「通常ともなう事象」のため原則対象外
  • 物理的な損害や、我慢の限度をこえる健康被害は例外的に対象となる場合がある
  • 保険の役割は、対物・対人・PL事故など「突発的な事故」への備え
  • リスクに応じて「請負業者賠償責任保険」「使用者賠償責任保険」「PL保険」などを組み合わせることが重要

「保険に入っているから大丈夫」と考えるのではなく、その補償内容が自社のリスクに本当に合っているかを見きわめることが大切です。

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