投稿日:2024.12.24 最終更新日:2025.12.11
請負業者賠償責任保険とは?補償内容・特約・加入の必要性をわかりやすく解説
工事現場では、作業中に工具が落下して通行人にケガを負わせたり、重機の操作ミスで隣接する建物や車両を損傷させてしまう事故が起こりえます。こうした「第三者への損害」が発生した場合、施工業者は法律上の賠償責任を負うことになります。
民法第709条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められており、工事中の事故で第三者に損害を与えた場合、業者は賠償金を支払わなければなりません。
参考:e-Gov法令検索 民法
こうしたリスクに備えるのが「請負業者賠償責任保険」です。この記事では、請負業者賠償責任保険の補償内容から、加入すべき理由、実際の保険金支払事例まで、工事業者が知っておくべきポイントをまとめました。
- 請負業者賠償責任保険の補償内容と補償されないケース
- 工事保険の中での位置づけと他の保険との違い
- 実際の事故事例と保険金の支払額
- 元請が保険に入っていても下請けが加入すべき理由
請負業者賠償責任保険とは?補償内容・特約・加入の必要性をわかりやすく解説
工事現場では、作業中に工具が落下して通行人にケガを負わせたり、重機の操作ミスで隣接する建物や車両を損傷させてしまう事故が起こりえます。こうした「第三者への損害」が発生した場合、施工業者は法律上の賠償責任を負うことになります。 民法第709条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利
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目次
請負業者賠償責任保険とは?

請負業者賠償責任保険は、工事現場で発生するリスクのうち「第三者への損害」をカバーする保険です。工事作業中に起きた事故で、通行人にケガを負わせたり、近隣の建物・車両を損傷させた場合に、法律上の損害賠償金や訴訟費用を補償します。
工事保険には大きく分けて「モノを守る保険」「ヒトを守る保険」「第三者を守る保険」の3種類があります。請負業者賠償責任保険は、このうち「第三者を守る保険」に該当し、対人・対物の賠償リスクに備えるための基本的な保険です。
建設業のリスクを裏付けるデータ
厚生労働省の統計によると、令和6年における建設業の労働災害による死亡者数は232人に上ります。建設業は全産業の中で最も死亡災害が多い業種であり、全産業の死亡者746人のうち約31.1%を建設業が占めています。
このように建設業は事故リスクが高い業種であるため、第三者への損害に備える請負業者賠償責任保険は、工事・建設業者にとって不可欠な保険といえます。
請負業者賠償責任保険が必要な理由
工事現場での事故は、第三者に重大な損害を与える可能性があります。民法第715条では「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められており、従業員が起こした事故であっても、会社(事業主)が賠償責任を負うことになります。
参考:e-Gov法令検索 民法
請負業者賠償責任保険に加入することで、以下のメリットがあります。
高額賠償への備え
工事中の事故で第三者に損害を与えた場合、賠償額が数百万円から数千万円に及ぶケースも珍しくありません。保険に加入していれば、こうした高額な賠償金を保険でカバーできるため、会社の財務への影響を最小限に抑えられます。
示談交渉のサポート
請負業者賠償責任保険には、保険会社による示談交渉サービスが付帯されていることが一般的です。事故発生時に被害者との交渉を保険会社が代行してくれるため、迅速かつ適切な事故対応が可能になります。
企業の信頼維持
事故対応が遅れると、被害者だけでなく取引先からの信頼も失いかねません。保険に加入していることで、万一の際にも速やかに賠償対応ができ、企業としての信頼を維持できます。
請負業者賠償責任保険の補償内容

請負業者賠償責任保険は、具体的にどのような事故・損害を補償するのでしょうか。ここでは補償される範囲と補償されないケースを整理します。
補償される事故・損害
第三者への人身事故(対人賠償)
工事作業中の不注意で第三者(通行人や近隣住民)にケガを負わせたり、死亡させてしまった事故が補償対象です。
- 高所作業中に工具を落下させ、下を歩いていた人に重傷を負わせた
- 足場の倒壊により通行人がケガをした
第三者の財物損壊(対物賠償)
工事中のミスで他人の所有物を破損した事故が補償対象です。
- 工事車両の操作ミスで隣家の塀を壊した
- 作業中に誤って施主所有の設備を破損した
法律上の損害賠償金・訴訟費用
被害者に支払う治療費・修理費・慰謝料などの損害賠償金のほか、裁判になった場合の争訟費用や弁護士費用も補償対象となります。
実際の事故事例と保険金支払額
請負業者賠償責任保険が実際にどのような事故で役立つのか、具体的な事例を紹介します。
事例1:コンクリート片が飛散し車両・建物を損傷
新築工事のコンクリート打設作業中、破片が飛び散り、付近に駐車中の自動車と隣接建物の外壁を損傷。施工業者が被害車両・建物の修理費用を賠償し、保険金約33万円が支払われました。
事例2:リース建機を操作ミスで破損
建設現場でリース借用中の建設機械を、オペレーターの操作ミスで衝突・損傷させる事故が発生。施工業者がリース会社に対し機械の修理費用等を賠償し、保険金約201万円が支払われました。
事例3:施工不良で敷地内配管を破損
建物基礎の地盤沈下修正工事において、埋め戻し作業の施工精度が不十分だったため敷地内の給排水配管等に損傷が生じ、配管の付け替え補修工事が必要に。保険金約426万円が支払われました。
このように、請負業者賠償責任保険は数十万円から数百万円の賠償金をカバーし、施工業者の経済的負担を軽減します。
補償されないケース(免責事項)
請負業者賠償責任保険にはカバーされないケースがあります。リスク管理のためには、補償対象外のケースを把握し、必要に応じて他の保険と組み合わせることが重要です。
自社の従業員の負傷
請負業者賠償責任保険は「第三者への損害」を補償する保険です。自社の従業員が作業中にケガをした場合は補償されません。従業員の負傷には労災保険や労災上乗せ保険で備える必要があります。
自社の設備・機材の損壊
工事中に自社が所有する機材や設備が損傷した場合も補償対象外です。自社財物の損害には建設工事保険や機械保険を組み合わせると安心です。
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施工対象物そのものの損壊
工事の対象そのもの(施工中の建物やリフォーム中の物件)が破損した場合、請負業者賠償責任保険は適用されません。これらのリスクには建設工事保険で備えます。
工事完了後(引き渡し後)の事故
引き渡し後の建物や設備に欠陥があり、それが原因で事故が発生した場合は補償対象外です。工事完了後のリスクには生産物賠償責任保険(PL保険)が有効です。
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地盤沈下・振動等による損害
工事に起因する地盤沈下や工事振動によって周辺構造物等に生じた損害は、通常の補償では対象外となります。ただし、地盤沈下等危険補償特約を付帯することで補償可能です。
故意・重過失による事故
被保険者の故意または著しい過失による損害、戦争・天災による損害など、保険約款上免責と定められた事由による損害は補償されません。
請負業者賠償責任保険の主な特約(オプション)

請負業者賠償責任保険は、基本補償に加えて特約(オプション)を付帯することで、補償範囲を拡張できます。主な特約を紹介します。
| 特約名 | 補償内容 |
|---|---|
| 管理財物損壊補償特約 | 他人から預かった財物(管理財物)を損壊した場合の賠償責任を補償 |
| 借用財物損壊補償特約 | リース・レンタルで借用中の機械や工具を損壊した場合の賠償責任を補償 |
| 支給財物損壊補償特約 | 発注者から支給された資材や材料を損壊した場合の賠償責任を補償 |
| 工事遅延損害特約 | 事故による工期遅延で発生した損害を補償 |
| 地盤沈下等危険補償特約 | 工事に起因する地盤沈下・振動等による第三者損害を補償 |
特に、建設現場ではリース機材を使用することが多いため、借用財物損壊補償特約は重要な特約です。先述の「リース建機を操作ミスで破損」の事例でも、この特約によって約201万円の保険金が支払われています。
自社の工事内容やリスクに応じて、必要な特約を選択することで、より手厚い補償を得ることができます。
他の工事保険との違い
工事・建設業で使われる保険は複数あり、それぞれ補償する範囲が異なります。請負業者賠償責任保険と他の主要な保険の違いを整理します。
| 保険の種類 | 補償するリスク | 対象 |
|---|---|---|
| 請負業者賠償責任保険 | 工事中の第三者への損害(対人・対物) | 第三者 |
| 建設工事保険 | 工事中の施工対象物・資材の損害 | モノ |
| 生産物賠償責任保険(PL保険) | 工事完了後(引き渡し後)の事故 | 第三者 |
| 施設賠償責任保険 | 施設の欠陥による第三者への損害 | 第三者 |
| 労災保険・労災上乗せ保険 | 従業員の業務中のケガ・死亡 | 従業員 |
請負業者賠償責任保険とPL保険の違い
「請負業者賠償責任保険」は工事作業中の事故を補償するのに対し、「生産物賠償責任保険(PL保険)」は工事完了後(引き渡し後)の事故を補償します。
例えば、施工中に足場が倒れて通行人がケガをした場合は請負業者賠償責任保険で補償されます。一方、引き渡し後に施工不良が原因で建物の一部が崩れ、通行人がケガをした場合はPL保険で補償されます。
工事の全工程を通じてリスクに備えるためには、請負業者賠償責任保険とPL保険の両方に加入することが望ましいでしょう。
元請が入っていても下請けも加入すべきか?

「元請が保険に入っているから、下請けは入らなくていいのでは?」という疑問を持つ方も多いでしょう。結論から言えば、下請け業者も独自に請負業者賠償責任保険に加入すべきです。
元請の保険でカバーされないケース
民法第716条では「注文者(発注者)は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない」と定められています。つまり、下請け業者の過失による第三者損害については、原則として元請(注文者)は責任を負いません。
参考:e-Gov法令検索 民法
元請の保険契約内容によっては、下請け業者の作業中の事故がカバーされない場合があります。そのため、下請け業者が自社で保険に加入していないと、事故発生時に全額自己負担となるリスクがあります。
一人親方・小規模事業者こそ加入が重要
特に一人親方や小規模な下請け業者にとって、高額な賠償金は事業存続に直結するリスクです。数百万円の賠償責任が発生した場合、保険に加入していなければ自己資金で対応しなければならず、最悪の場合は廃業に追い込まれることもあります。
元請の保険に頼るのではなく、自社で請負業者賠償責任保険に加入し、万一のリスクに備えることが重要です。
保険料の目安と契約方法
請負業者賠償責任保険の契約方法には、主に「年間包括契約」と「スポット契約(個別契約)」の2種類があります。
| 契約形態 | 特徴 | 向いている事業者 |
|---|---|---|
| 年間包括契約 | 年間の工事高を元に包括的に契約。工事ごとの手続きが不要 | 継続的に複数の工事を行う業者 |
| スポット契約 | 工事案件ごとに個別に契約。必要なときだけ契約可能 | 単発工事が多い業者、小規模事業者 |
保険金額(支払限度額)の設定
補償額には契約ごとに上限(支払限度額)があります。一般的な契約例では「対人賠償1億円・対物賠償5,000万円」の限度額設定が多く見られます。
支払限度額を超える賠償責任が発生した場合は自己負担となるため、自社の工事規模やリスクに応じて適切な限度額を設定することが重要です。
自己負担額(免責金額)
契約によっては、1事故あたりの免責金額(自己負担額)を設定できます。免責を設定すると小規模な損害は自己負担となりますが、その分保険料が割安になります。保険料を抑えたい場合は、免責金額の設定を検討してもよいでしょう。
まとめ:請負業者賠償責任保険で第三者リスクに備えよう
請負業者賠償責任保険は、工事作業中の事故で第三者に損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。
- 請負業者賠償責任保険は「工事作業中」の第三者への損害(対人・対物)を補償
- 民法709条・715条により、従業員の過失でも会社が賠償責任を負う
- 建設業は全産業中最も死亡災害が多く、第三者損害への備えが不可欠
- 基本補償に加え、特約で補償範囲を拡張できる
- 工事完了後のリスクには別途PL保険が必要
- 元請が保険に入っていても、下請けも独自に加入すべき
工事・建設業においては、事故リスクへの備えが企業の信頼維持と事業継続に直結します。自社に合った保険プランを選ぶことで、安心して工事を進められる体制を整えましょう。
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